今回のCCO*インタビューは地域医療連携に20年以上携わっている、渋川医療センターの須賀さんです。須賀さんのことをご存知の方は多いかと思います。前橋赤十字病院を定年退職してからも地域医療連携に携わっており、現在でも1ヵ月に約60件の訪問を行っています。地域医療連携におけるトップランナーとして走ってきた須賀さんには、連携実務者の育成方法についてもお聞きしました。
* CCO(Chief Communication Officer)とは「組織におけるコミュニケーションの統括責任者」のことです。日本国内の企業においてはグローバルIT企業を中心に任命する組織が出始めています。コミュニケーションが経営戦略においてますます重要度を増す中で、経営陣の一人として、社会の人々との関係に責任を持つCCOを任命する企業が増加しています。
国立病院機構 渋川医療センター 地域医療連携室 渉外担当
須賀 一夫 さん
渋川医療センターは北毛地域(渋川保健医療圏、沼田保健医療圏、吾妻保健医療圏)で唯一の地域医療支援病院として基幹病院としての役割を担っています。2021年7月に群馬県のてんかん支援拠点病院に認定され、2022 年4月よりてんかんセンターとして包括的てんかん診療を行うなど、隣接する前橋保健医療圏にある4つの地域医療支援病院との差別化を図っています。また、地域医療連携が進んでいる前橋保健医療圏と同水準の連携体制を築くことで、地域の患者さんにより良い医療を提供するための取り組みを強化しています。
病院名)独立行政法人 国立病院機構 渋川医療センター
所在地)群馬県渋川市白井383番地
病床数)450床
災害活動や救急医療に対しての赤十字の事業の幅広さに惹かれて、大学卒業後の1980年4月に前橋赤十字病院に入職しました。それから定年退職するまで40年間勤務しましたが、会計、医事課を経て2003年2月に地域連携に携わるようになりました。連携室の配属を希望したわけではありませんでしたが、自院の医師との連携強化を期待されました。
連携パスを15件作成から運用に関わった実績は自慢してもいいんじゃないかなと思ってます。「パスを1年に1個作る」というのが当時の連携室の合言葉でした。中でも印象に残っているのは、群馬県で最初の病病連携パスの「大腿骨頚部骨折連携パス(整形外科)」と県内のモデルとなって統一された「脳卒中連携パス(脳神経外科、脳神経内科)」です。また、病診連携パスでは医科歯科の県内最初の「口唇口蓋裂連携パス(形成外科、歯科)」と「周術期等口腔機能連携パス(歯科)」、全国で最も早く普及した「骨粗鬆症連携パス(婦人科)」や「ぜんそく連携パス(呼吸器内科)」や「SAS連携パス(呼吸器内科)」、多職種活動の大きな効果となる「糖尿病連携パス」などです。
臨床で多忙な日々を過ごす医師のかゆいところに手を届かせるよう、きめ細やかなコミュニケーションを取ることです。医師と連携実務者が平等に意見を交え、常に連携室からご提案するスタンスが結果につながりました。連携パスは紹介・逆紹介のツールとしての手段に過ぎず、かかりつけ医との紹介基準の明確化やスムーズな紹介のための道具として特に力を入れてきたものです。
外部の連携パスは連携室主導じゃないとできないと思います。開業医の先生方のご意見を伺いながら一緒に作り上げないと、結果的に使ってもらえない連携パスになってしまうので、開業医の先生方のことを良く知っている連携室が主体的に取り組むのがベストでしょう。前橋赤十字病院では連携パスの対象も連携室が選定していましたが、地域のニーズを理解できない組織だと確かに難しいかもしれません。情報を開示できる組織風土は重要な要素だと思います。
前院長の理解により他院に向けて、赤十字の「できることならば、どうぞやってみてください」というオープンな文化が前向きに働いたと思います。前橋赤十字病院では各診療科で紹介数の目標を立てていましたが、その中でも特にやる気のある診療科の協力で連携システムを強化することができました。そんな組織風土の中で、県内で最初に乳がん連携パス、大腿骨連携パス、脳卒中連携パスを作ったり、全国で最初に骨粗鬆症の連携パスも作りました。乳がん連携パスは20年近く前になりますが、当時は連携パスという言葉も一般的ではなく、「地連パス」「フォローアップ外来」と呼んでいました。
少し混乱するかもしれませんが、現在は渋川医療センターの他にJCHO群馬中央病院でも勤務しています。先に入職したのはJCHO群馬中央病院で、2020年4月になります。健康管理センターでの健康管理・予防や、小児・周産期医療に力を入れている病院で、地域医療連携の経験がお役に立てればと思っています。コロナ禍の真っ只中でしたが、2年間で累計1,200件訪問しました。
事前の訪問予約で断られたのは2件だけです。コロナ禍の中で地域連携がリセットされてしまったという見方がありますが、地域のため、患者さんのためになる活動であれば開業医の先生方はご理解いただけるのではないでしょうか? 訪問したら迷惑かもしれないと思うのであれば、普段の活動を見直した方が良いかもしれません。
県の動態調査によると前橋に患者さんが流れている傾向にあることが分かっていまして、前橋と同水準の連携体制を築くための活動をしています。1ヵ月に60件くらい訪問に行きますが、群馬県全域、群馬県の県境の長野県の佐久市や栃木県の足利市にまで訪問に行くこともあります。患者さんがどのように流れているのかを調査する目的もあります。また、渋川地区での医療ネットワークの会を今年度中に組織化して、連携実務者の人材育成、情報共有、医療資源の共通化を進めて、それぞれがWin-Winになる連携ができるよう体制づくりをできたら良いと考えています。群馬県内には他にも高崎安中地区での連携協議会がありますが、さらに多職種による県内組織になれば良いなと思っています。
一番感じたことは、連携実務者としての現役を退いてからも県内中毛、北毛、東毛の病院の医師や開業医の先生方が自分のことを覚えてくれていて、培った人脈が自身の宝物と思っています。前橋市の診療所の先生から、「前橋の病院にいてもらうだけで安心だ」と数多く仰っていただいたことが何よりもうれしいです。
基本的にはギブアンドテイクで、その積み重ねがあって困った時に助けていただけるようになります。診療報酬の相談や、細かい依頼を受けたり、大事な人がお亡くなりになった時にお葬式に参列することもあります。それらは平日に限りませんので、連携実務者が柔軟な働き方ができるようになると良いかもしれません。
尊敬する前橋市の理事の先生の言葉ですが、「地域連携は入職して3年間は他人のコトバで語り、4年目から自分自身のコトバで語る」ことができます。スキルは無いよりあった方がもちろんいいですが、人と人、組織と組織をつないでいくためには少なからず年月が必要です。その点で、連携実務者にはスキルよりもマインドが重要だと思います。また、地域医療連携は日々進化しているのだから、連携実務者は苦労を厭わないこと、「病院の給与者」でなく「連携の職人」であるべきと思いますし、前年と同じ仕事だけを続けるのは地域医療連携実務者として失格ではないかと思っています。
地域医療連携スキルマップ
やる気があれば機会はいくらでもあると思っています。例えば、雑誌であれば「BAMBOO」という開業医をサポートする総合情報誌や、「地域連携 入退院支援」という地域医療連携をサポートする専門雑誌がおすすめです。また、日本医療マネジメント学会が認定する医療福祉連携講習会への参加や、日本医療マネジメント学会の各都道府県支部が開催する学会や集会への参加、周辺の病院が主催する学術講演会への参加、メーカー主催の学術講演会・セミナーへの参加もおすすめです。最近は私もZoom形式の講演会によく参加するのですが、スマホで記録しておけば自身のスキルアップとして後で情報を整理することができますし、医師だけの中で参加するプレッシャーもなく参加しやすいので、便利な時代になったなと思っています。ただ、現地で講演会に参加することは、便利さ以上の大きなメリットがあることを忘れてはいけません。それは、地域の医師とお会いすることができ、ご挨拶、情報共有、時にはクレームをいただくことができ、訪問活動をしたことと同じ効果があります。そのため、できるだけリアル参加を希望しています。どんなに遠くても、群馬県内どこでも駆け付けています。
地域みんなで未経験の担当者を育てることが必要だと思います。「なんで競合となり得る病院の担当者を育てなきゃいけないんだ」とか、「自院の担当者の育成もままならない」とかあるかもしれませんが、地域のスキルとモチベーションの水準が上がることで、自院の担当者の成長意欲や機会が増大します。つまり、必ず自院に返ってきます。連携実務者が今後の地域医療や医療機関の命運を大きく左右することは間違いないので、管理者には越境学習の機会を提供して欲しいと思います。もちろん私も、その場を作りに行きたいと考えています。
私も医師によってはコミュニケーションが苦手だなと思う時期がありました。医師も人間ですので、苦手なことや苦手な人は当然あるかと思います。こちらとしては、相手の気持ちになって考えることが大切で、逃げないことが大切です。まずは、対象となる医師からのご意見に耳を傾けることを意識しましょう。どれだけ現実離れした意見であったとしても、その場で解決・否定しないで、持ち帰って吟味してから回答するよう意識すれば気も楽になります。事務職といっても、地域連携は病院の立場だけでなく連携先の立場で考えたり話す必要があります。まずは、話を聞くこと、事実をしっかりとお伝えすること、自分自身に少しずつでも信頼をしていただくことが重要です。
やる気のある人や必要としている実務者の皆さんには、自身の知識や経験の財産をどんどん渡していきたいと思っています。来るものは拒まず、といった20余年間の地域医療連携のノウハウを引き継げればと思います。連携というのはお互いが高め合うことに他なりませんが、そのためには『つなぎ人』として成熟した人材育成が必要です。組織や地域のネットワークを通して人材育成ができるよう、自身の知識と経験を生かしていければ幸いです。
編集後記
密度の濃い活動をいくつも教えていただき、誠にありがとうございました。息子さんお二人も地域医療連携に携わっているとのことで、驚きの連続でした。今回のインタビューでは「自分には何ができるのだろうか」と考えさせられました。渋川医療圏の連携が今後どのように強化されていくのか、今後も注目していきたいと思います。
マーケティング部 神原