CCOインタビュー Vol.1(函館五稜郭病院 船山さん)
病院経営において院内および地域とのコミュニケーションは非常に重要な要素であり、地域医療連携の推進者が重要な役割を担っています。地域医療連携の推進者は、患者・連携先・自院・地域(自治体等)のすべてのニーズを捉え、適切なコミュニケーションが行える仕組みづくりを行っており、正にCCO*としての責務を担っています。
今回は、函館五稜郭病院の船山さんをCCOの一人目としてご紹介します。
* CCO(Chief Communication Officer)とは「組織におけるコミュニケーションの統括責任者」のことです。日本国内の企業においてはグローバルIT企業を中心に任命する組織が出始めています。コミュニケーションが経営戦略においてますます重要度を増す中で、経営陣の一人として、社会の人々との関係に責任を持つCCOを任命する企業が増加しています。
目次
CCO1人目
函館五稜郭病院 地域連携・PFMセンター センター長 兼 法人本部事務局 経営企画課長
船山 俊介 さん
病院を取り巻く環境
二次医療圏の数を都道府県別にみると、北海道は21で最も二次医療圏の数が多い都道府県です。その中で、函館五稜郭病院は人口約35万人(2020年時点)の南渡島医療圏にあります。南渡島医療圏の特徴は、人口は減少傾向、医療需要はピークを過ぎている状況にありながら、広大な面積をカバーしなければならないという特徴があります。ご自宅から函館五稜郭病院に行くのに車で片道2時間半かかる患者さんもいらっしゃるとのことで、「集患だけではなく、後方に関しても責任を持たなければいけません(船山さん)」と前方連携と後方連携はセットで考えなければならないとのことです。
南渡島医療圏には函館五稜郭病院の他に2つの急性期病院(市立函館病院、函館中央病院)がありますが、救急の医療資源が不足している現状にあるそうです。函館五稜郭病院では救急医療体制の強化に力を入れており、100km以上離れた患者を受け入れるなど、年間で3,244人(2022年度実績)の救急患者を受け入れています。
病院名)社会福祉法人 函館厚生院 函館五稜郭病院
所在地)北海道函館市五稜郭町38番3号
病床数)480床
診療科数)27
職員数)1,104名
インタビュー
函館五稜郭病院に入職したのはいつですか?また、入職のきっかけを教えてください。
平成6年に千葉県の大学を卒業しまして、函館五稜郭病院にMSWとして入職しました。ただ、実は一度もMSWの職に就いたことはなく、配属されたのは病床管理部門でした。MSWの職に特にこだわりがあったわけではなかったので、もうすぐ勤続30年を迎えますが入職してからずっと経営部門に携わっています。
入職のきっかけですが、実は大手の旅行代理店でツアーコンダクターの内定をいただいていたのですが、兄が東京の企業で働くことが決まりまして、誰かが両親を見なければいけないなと思って実家(函館)に戻ろうと決めました。それから、MSWの採用枠が空いているということで函館五稜郭病院の採用試験を受けることにしました。当時は医療に対する強い想いというものはそこまでありませんでしたが、まずは両親や自分の生活を守らなければいけないので、安定した職場で働きたいという想いが強かったと思います。
入職してから現在までの経歴を簡単に教えていただけますでしょうか?
入職して最初に配属されたのは病床管理部門でした。当時の病院長の方針で、医師や看護師だけにベッドコントロールを任せるのではなく、事務が経営的な視点でいかに空床を無くせるかの取り組みをすることになりました。空いているベッドをどうやって埋めていくかを考え、病棟の師長と折衝してベッドを埋めていくということを約9年間やりました。その途中で、紹介率30%、平均在院日数20日以内を要件とした「急性期入院加算(現在は廃止)」という診療報酬における大きい加算が2000年から始まりまして、経営的なインパクトも大きかったので当院も算定を目指すことになりました。1999年から、急性期入院加算に関連する数値をコントロールするという業務が中心となりました。
病床管理部門で9年間勤めた後は、どちらに配属されたのでしょうか?
企画部門に配属されまして、色々なことを学ばせていただいた15年間でした。配属されてすぐに医療総合サービスセンターの立ち上げの企画を行いました。ただ、良くあることかもしれませんが、立ち上げたはいいものの現場を管理する職場長が決まらない事態になりまして、自分がセンター長を担うことになりました。現在はその後身となる地域連携・PFMセンターでセンター長を担っていますので、この31〜32歳の頃に現在の礎を築いたと言っていいと思います。病床管理部門にいた頃は自院の中だけで動いていましたが、地域医療連携に携わるようになってからは地域医療、日本全体のことに目を向けるようになって、視野が広がっただけでなくて業務全体の視座が上がるきっかけになりました。
昔と現在で異なると思いますが、30歳前半でセンター長になるというのは簡単なことではないように感じます。なぜ、このような重要な業務を任せてもらえたのでしょうか?
自らの力だけで切り拓くのは正直難しくて、機会を与えてもらえないと難しいと思います。当時を振り返ると、現状を打破したい気持ちが強くて、課題を発見したら当時の事務長に話すようにしていました。そうした結果、「船山だったら次のステージに行っても何かやってくれるだろう」と事務長に思っていただき、企画部門に配属されました。無暗やたらにアピールすればいいということではなくて、自分自身を俯瞰的に評価して、次のステップに行くためには何をやる必要があって、どう周囲に働きかければいいかを考えることが重要だと思います。
今お伺いしたキャリアの中で、最も印象に残った出来事を教えていただけますでしょうか?
企画部門にいた平成18年(船山さん30代半ば)に、脳神経外科が3月から休診という話があって、そのままにすると利益が1.5億円マイナスになるピンチがありました。このピンチを当時の企画課長を中心に、戦略をしっかり立案して、院内全部署を巻き込んで乗り越えたプロジェクトが最も印象に残っている仕事です。通常であれば脳神経外科の医師の採用に奮闘するところかもしれませんが、この時は新しい年度まで3ヵ月程度しか残されていなかったこともあり、確実性のある戦略が求められていました。そこで取った戦略が、一病棟を閉鎖することでした。病棟を1つ無くすことで看護単位が1単位余りますので、ICUに看護師を配置してICU特定集中治療室管理料を算定可能にして、残りを救急病床に配置することで救急患者を受け入れられるようにしました。また、平成18年から7対1入院基本料が創設されたので、7対1入院基本料も取れるようにしました。合わせて亜急性期病棟を作り、病棟の看護師の配置を傾斜配置するなど、これらすべてを3ヵ月程度で体制を整えることで結果的に5億円プラスにすることができました。
ピンチをチャンスに変える戦略を立案して無駄に病院の体力を消耗することなく乗り越えられたことは、その後の地域医療連携にも生かされています。
ありがとうございます。ここからは地域医療連携に話題を移していきます。地域医療連携は自院と連携先、患者さんの橋渡し的な存在で、高いコミュニケーション能力はもちろんのこと様々なスキルが求められると思います。船山さんは地域医療連携にはどのスキルが特に必要だと思いますか(図表1を参照)?
どれか1つを上げるとしたら「戦略立案・設計」です。地域医療連携は自院だけでなく、連携先や地域の成功も考えなくてはいけません。相手のことを理解した上で、お互いに負けない(不敗)戦略を練ることが重要です。
ただ、このスキルマップにあるように、地域医療連携には様々な知識やスキルが必要です。地域医療連携は交渉というよりも折衝だなと常々思っていて、『外交官』のスキルが必要だと考えています。双方がWin-Winの関係を築くためには、様々な知識やスキルを身に付けなければいけませんし、院内だけでなく連携先や地域を巻き込むとなると、視座を上げて各スキルを何段も高いレベルに引き上げる必要があると思っています。
図表1:地域医療連携スキルマップ
戦略立案・設計ができても、実行できなければ絵に描いた餅になります。病院という組織を動かすためには医師とのコミュニケーションは必須だと思いますが、船山さんが気を付けていることを教えてください。
コミュニケーションというのは、相手の言っていることを理解する、共感できるということです。相手のことを理解しようとする気持ちと、話の引き出しとなる知識を増やすことが重要だと思います。当院の職員の中でも医師とうまくコミュニケーションができていないケースがありますが、その先生のことを理解しようと努力していないことがほとんどです。先生個人のことを知ろうとする努力と、共通言語で話せるだけの最低限の知識を身に付けていれば変に身構える必要は無いと思います。少なくとも、私は医師とのコミュニケーションに苦手意識を持ったことはありません。
船山さんが地域医療連携で最も必要なスキルとする「戦略立案・設計」のスキルを磨くうえで、おすすめの書籍はございますか?
守屋 洋さんの『孫子の兵法』です。ピンチをチャンスに変える考え方や、相手を取り込んで勝つための考え方など、地域医療連携に生かせることは多いと思います。戦略は学べるものなので、地域医療連携に携わっている方は読んで損は無いと思います。
最後に、船山さんの直近のミッションについて教えてください。
直近のミッションは、まず1つは組織として地域医療連携における折衝力を上げることです。現在は私以外に連携先との折衝ができる職員がいない状況なので、紹介受診重点医療機関として定着をすることや地域医療支援病院を目指すためにも、組織全体のスキルの底上げが必要です。連携先管理ツール(CRM)を今年導入したので、DXの力を借りつつ連携先や地域医療をより良くしていける人材を増やしていきたいと思っています。もう1つのミッションは、7月から法人本部の経営企画を兼任することになったので、法人としての連携の在り方について考えていきたいと思っています。医療と介護・福祉の連携、CSR(社会的責任)、地域の医療資源を無駄にしないための連携など、考えるべきことは山積みです。
編集後記
福沢諭吉の代表作である「学問のすすめ」にて”進まざる者は必ず退き、退かざるものは必ず進む”という言葉があります。現状維持に努めるだけではいずれ衰退していくということを意味する言葉ですが、常に現状を打破しようと思考をめぐらすところに船山さんの強みを感じました。
マーケティング部 神原
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