事例インタビュー

社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院 様

作成者: 管理者|Jun 18, 2021 8:43:09 AM

病院向け地域連携強化サービス『foro CRM』開発のきっかけとなったのが、熊本県熊本市の済生会熊本病院様です。高度急性期病院として、地域医療機関とのコミュニケーション充実が地域医療への貢献に不可欠とのお考えのもと、弊社との共同開発で『foro CRM』プロジェクトを立ち上げてくださいました。同院、地域医療連携室の松岡佳孝室長代行に、共同開発の経緯や効果、引いては病院のDX化の未来などについて話を聞いてみました。

地域医療連携を強化、まずは後方連携の充実化から着手

――済生会熊本病院は、どのような特色を持つ病院なのでしょうか?

松岡:地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、救命救急センターなどの指定を受けている急性期専門病院として、熊本市はもちろん周辺市町村の患者さんを受け入れています。病床は400床、職員数は約2000名に達しています。

当院は「医療を通じて地域社会に貢献する」という理念のもと、4つの基本方針(救急医療・高度医療・地域医療と予防医学・医療人の育成)を掲げています。

 

理念のアクセントは“地域”にあります。地域との連携活動を具体的に定めることにより、より質の高い高度急性期医療の提供を可能とする体制を整えてきました。

 

――地域医療連携に関しては、「後方連携」の充実化からスタートしたそうですね。

松岡:400床という病床数で年間約9,000台の救急車を断らずに受け入れ続けるためには“出口戦略”が重要課題となります。

そこで、2010年に医療連携部が発足してからは後方連携が重点的に推進されました。

当時、医療連携部のトップだった中尾浩一病院長は、後方連携の再整備に着手するにあたって、「患者さんのストーリーに責任を持った連携」というコンセプトを標榜。患者さんが転院したら当院の役目は終わってしまうのではなく、その後の健康状態、回復の度合いなども把握する為、データを用いた連携会議を実施することにより、連携医療機関間での適切な引継ぎと関係性の深化が図られました。-約5年の歳月をかけ、“アライアンス連携”という一つの医療連携モデルが確立しました。

 

――前方連携に関しては、後方連携が整ってから着手したとお伺いしました。 

松岡:全国の他地域の例に漏れず、熊本県も人口減少が進んでいます。地域医療構想により将来的なポジショニングが求められる状況下、当院においては引き続き400床全て高度急性期としての機能を担う事となりました。

長期的に高水準で保つためには、従来以上に地域から選ばれる病院として“入口戦略”を見直す必要があり、患者さんの紹介元となる地域の医療機関との関係性を密にしていくべく、2015年度から前方連携に注力し始めました。

 

――従来はどのような形で前方連携を進めていたのでしょうか?

松岡:周辺の数百のクリニックに訪問して関係を築いたり、県内全域、一部県外も含めた約1500の医療機関に広報誌を送ったりといったことはしていました。ただ、あくまでも一方的なコミュニケーションに偏っており、連携先の声を起点とした改善活動は多くありませんでした。

その点を変えていくべく、連携先を“顧客”として捉え、一般事業会社のマーケティング戦略、営業戦略を取り入れたいと考えました。そのためには部内の前方連携担当者たちが個々の枠組みを超えてコミュニケーションしなくてはならないとも実感していました。

共同開発に進んだ契機は、メダップが提示したデータ

――前方連携への取り組みが活性化する中で気付かされたことはありますか?

松岡:全医療機関にアンケートを取ったとき、「医師はなかなか本音を表現してくれない」という事実に気付かされました。実際、アンケート上では当院のことを高く評価いただいているにも関わらず、その医師からの紹介実績がほとんどない、或いは実は当院に対する蟠りがあるというケースが見受けられました。

高度急性期という特性上、緊急紹介が必要となった場合や患者さんが当院への紹介を希望される場合、当院と連携せざるを得ません。だからこそ、蟠りを抱えながらも面と向かって悪いことは言えないのです。そういった連携先の先生方の“氷を溶かす作業”が必要なのだろうと痛感させられました。

 

――その後、メダップとの出会いがあったそうですね。

松岡:最初は入退院管理の支援ツールに関して提案を受けていました。ただ、後方支援にかかわる仕組みはある程度形になっていたことから、課題は前方支援にあると打ち明けました。そうしたディスカッションの中で、前方連携の支援ツールは世の中に事例がなく、一般企業では当たり前の「顧客関係管理(CRM)」の考え方をもとに、地域クリニックなどにアプローチしていく必要があるといった話題に発展していきました。

 

――その後、当社との共同開発をスタートさせたわけですが、開発中はどのようなところに苦労されましたか?

松岡: 開発には1年ほどかかりましたが、前方連携の業務そのものの形もノウハウが定まっておらず、手探りの中で進めていかざるを得ませんでした。しかし、自分たちが改善したいと思っていたところをメダップさんが丁寧に拾い上げて形にしてくれたおかげで、楽しく開発に取り組んでいった感覚があります。

 

メダップとの対話を通して、前方連携のノウハウが集積されていく

 

――foro CRM』の導入によってどのような効果がありましたか?

松岡:『foro CRM』によって紹介データの分析が自動化され、リアルタイムで顧客の変化が察知できるようになりました。

また、ダッシュボードやマップ機能も充実しており、外出先で近隣の医療機関の紹介数の増減、大きな医療機関の有無などをチェックして、気になる場合はその足で訪問をするといったこともできるようになりました。自分のスマートフォンからでも必要な情報がいつでも引き出せるのはかなり有用ですね。

 

前回の訪問時に話した内容なども蓄積されているため、それを踏まえた提案や会話をすることが可能。おかげで当室のスタッフを「近しい存在」と認識していただく連携先の先生が増えてきました。foro CRMを活用することで、新人であってもそうした会話ができますので、スタッフの営業レベルを全体的に上げられたのが一番の収穫かもしれません。

 

――システムだけでなく、メダップの伴走サポートを評価していただいているそうですね。 

松岡:メダップさんのトータルサポート力には何度も助けられました。例えば、スタッフが営業に出かけるとき、事前に『foro CRM』に訪問目的やゴール、ストーリーを入力した上で、メダップさんからアドバイスをもらうことができます。また、訪問後は面談の内容、先方の反応、次にすべきことに関して、メダップさんからフィードバックが得られます。これらは『外報*』という訪問活動の質を上げるための伴走サポートです。

*外出報告書の略で、訪問前のディスカッションを『前外報』、訪問後のディスカッションを『後外報』と言う。株式会社キーエンスで活用される手法

 

戦略コンサルティングファーム出身者も在籍するメダップさんらしく、私どもが活動の方向性で迷っているとき、どういう風にアプローチをすればいいのかといったところをロジカルに組み立ててくれて、考えるべきこと、やるべきことを抜け漏れなく提示してくれているのが非常に心強いところ。PDCAサイクルを回すという点も、医療機関の職員でも継続的にできるように徹底支援してくれているのがありがたいです。

 

そもそも単に職員にCRMツールを提供するだけでは、できることに限界があります。メダップさんという専門家たちの“伴走”というところが本当に効果的でした。前方連携は業界内でもベストプラクティスが確立されていないだけに、院内にも相談できる相手がほとんどいないのが現状。そうした中で我々の考えや意見をメダップさんにぶつけながら、一つの“尺度”となるものが生まれたのは大きな収穫でした。

医療関係者のコミュニケーションのDX化を、『foro CRM』が加速させる

――foro CRM』を導入したことで、目に見える成果も上がっているとお聞きしています。

 

松岡:心臓外科の手術に関しては、共同開発を開始した2018年度から2020年度にかけて紹介数が回復してきています。当然関係診療科医師の自助努力による影響も大きいのですが、その他様々な前方連携活動が数値上昇の後押しとなりました。その一例が顧客のロイヤリティを測る「NPS」の改善です。NPSは欧米ではスタンダードになりつつある指標であり、当院でも連携先からの評価測定や、アクション対象の選定に活用しています。実際にNPSをもとにアプローチした先生からの評価が上がっており、対象となった医療機関個別で見ると紹介数の増加につながった面も見受けられています。

 

数字面に留まらず、前方連携を体系的に把握することができる点にも手応えを感じています。以前は各クリニックに訪問したところで、本当に効果があるのかがわからなかったのですが、『foro CRM』により効果検証ができるようになり、業務の質が向上したのは間違いありません。

――今後の課題はどのようなところにありますか?

松岡:現状は院内のコミュニケーションにのみ用いられていますが、将来は地域の医療関係者全員のコミュニケーションのプラットフォーム的な存在に発展していってほしいと考えています。連携先の先生の端末から当院への紹介のWeb予約、チャットなどの問い合わせツール、有用な情報を網羅した動画コンテンツの配信などができれば、地域医療の発展にさらに貢献できるはずです。

――最後に、病院のDX化に対してご自身の展望をお聞かせください。

 

松岡:医療機関はあくまでも人命救助が最優先課題。制度の縛りもある中で、連携先とのコミュニケーションの充実化はどうしても後回しになっており、事実、未だにFAXや郵送での連絡が主体です。そうした古い部分が残る医療業界でDXを進めるのは、内部だけの力では難しいと言わざるを得ません。メダップさんなどの先進的なテクノロジーを有する企業の協力があってこそ、DXは進んでいくのだと思います。

 

今後、医療の最前線では5GとVRを融合させた診察や治療の実施、オンライン診療の適用拡大、ディープラーニングによる診断と予防医療の進化などが実現していくことでしょう。発展の潮流の中で、PR戦略におけるコミュニケーションの形も大幅に変わるはず。CRMツールと伴走サポートが融合した『foro CRM』は、医療関係者のコミュニケーションのDX化に欠かせない存在になると期待を寄せています。